バイクと君と・・・僕はバイクに乗るのが好きだったバイクに乗っていると全ての音が風に消され 無になるんだ 音の無い世界 メットの中は自分の脳ミソだけの世界 視覚にはただただ続く道と信号機だけ この時間が1番好きだった 潮の匂いのする海岸を警察の目を気にしながらかっ飛ばすのが好きだった 信号が黄色に変った 行ける そう思った 横断歩道に飛び出した自転車が視覚に入った時 僕のマシンは路上を横滑り、自分もまるで氷の上を滑るように投げ出されていた 一瞬の出来事だった 自転車の高校生らしき男の子は慌てて自転車を起こしていた 「大丈夫」 駆け寄った僕の目を見ることもできず怯えていた 謝りながら膝の感覚が少しずつ鈍い低音をうなり始めていた 「大丈夫です」 そううなずくと男の子は逃げるように去って行った 悪いのは僕 どんなに責められても仕方ないのに どうやら相手は驚いてそれどころじゃなかったようだ・・・ よかった・・・ぶつからなくて・・・ ほっとする間もなく、信号が変る前に路上に横たわっているマシンを道路脇に移動させた 無残に破れたジーンズとウィンドブレーカー 高校時代にバレー部仲間で揃えたウィンドブレーカーだった 二度と着れない物になってしまったよ ため息混じりにこれまた傷だらけになったマシンを眺めながら 動くのだろうか?と思った ブレーキは1回転してるけどなんとか自力で戻せた エンジンは・・・ かかった 僕は? 走れるか? 膝が・・・膝が曲がらない 仕方なく片足はステップに乗せることは出来ず、だらりと垂らしたまま走る その夜、曲がらない膝に湿布して約束のバレーボールの練習に参加した僕は やっぱり若かった その後何度か膝の水を抜いたが骨折も無く、仕事も休まずに済んだ ただし、白衣の袖から真っ青な青タンが見えないように隠すのは一苦労だったけど 若かりし日の懐かしい思い出 今でも感覚が麻痺している右膝をさするたびに思い出す 若気の至り とは言え、不幸中の幸いだったと苦笑しながら膝を撫でる だけど今はもうバイクもあの若さも持っていない その癖、暗いトンネルにはよく突入しちまう 走り続ければいつか必ず抜ける時が来る 立ち止まっていたらいつまでたっても暗闇だ だけど、あんまり長いトンネルだと 明るい世界の事を忘れちまって、暗闇にいるのが当たり前になって 光を見つけることさえ忘れてしまう 少し、視覚も衰えて、走っているのに気が遠くなっていく 今どこをどんな速度で走っているのか分からなくなるんだな 車なら助手席から声をかけてくれれば目が覚めるけど バイクは一人の世界だから 誰も揺り起こしてはくれない いつも僕が暗闇を彷徨っていると 1つのメッセージが呼び起こす それが君のメールなんだ 今の僕にとってはどんな精神安定剤よりも効果があるようだ ほらね、驚くくらい笑っている自分に気付く 君のメールで僕は今日も一筋の光を見つけて 又走り続ける このたった1つのメルアドを失ったとき 僕はアスファルトを真っ赤に染めて 永遠の暗闇に放り出されるんだろうね いつか、又君とバイクでどこか遠くに行ってみたいと 叶わぬ夢を追いかけながら・・・ ジャンル別一覧
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